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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)128号 判決 1989年9月26日

原告

株式会社豊田自動織機製作所

被告

特許庁長官

主文

特許庁が昭和60年審判第20185号事件について昭和62年4月30日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者が求めた裁判

一  原告ら

主文同旨の判決

二  被告

「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決

第二請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告らは、昭和53年9月15日、名称を「ジエツトルームにおける緯入れ装置」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和53年特許願第113987号)をし、昭和59年6月29日出願公告(昭和59年特許出願公告第26688号)されたが、特許異議の申立てがあり、昭和60年6月28日拒絶査定を受けたので、同年10月16日審判を請求し、昭和60年審判第20185号事件として審理された結果、昭和62年4月30日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は同年6月17日原告に送達された。

二  本願発明の要旨

a  スレイ上に多数のガイド片を並設し、

該ガイド片に形成され、かつ、その奥部側壁部にガイド片間からガイド片の背後に流体の漏洩を許容する領域を形成したガイド壁によつて形成される緯入れ通路に、

緯入れ方向に所定の間隔を置いて配置した複数の補助ノズルから補助流体を噴射して、緯糸を前記ガイド壁の奥部側壁部に沿わせて飛来させ緯入れを行うジエツトルームにおいて、

b  前記ガイド片のガイド壁と織機の前後方向において向き合う位置に、スレイからほぼ垂立方向に延出するノズルを、補助流体の噴射口を前記ガイド壁の奥部側壁部に指向させて配設し、

c  前記補助ノズルと対向する側のガイド壁の前記奥部側壁部に、緯入れ方向に縮小する傾斜面を形成し、

前記傾斜面に対して、前記補助流体の噴射中心軸線が交差するように同噴射口を前記補助ノズルに配設して、

d  前記補助ノズルの噴射口から噴射され、前記ガイド壁の奥部側壁部に形成した傾斜面に衝突して緯入れ方向に反射される流体を、緯糸を案内すべき流体の主成分として、

e  緯糸を前記ガイド壁の奥部側壁部の沿わせて飛来させるようにしたこと

を特徴とする、ジエツトルームにおける緯入れ装置。(別紙第一図面参照)

三  審決の理由の要点

1  本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

2  これに対して、昭和51年特許出願公開第109366号公報(以下「引用例1」という。)には、

筬フレーム5に取り付けられた部品11及び12上に多数のブレード8を並設し、該ブレード8の筬4に面して形成した切欠き9のガイド壁によつて形成される緯入れ通路に、緯入れ方向に所定の間隔を置いて配置した複数の補助吹付けノズル10から補助流体を噴射して、緯糸を前記ガイド壁間(ガイド壁の奥部側壁部に相当する。)に沿わせ飛走させて緯入れを行うジエツトルームにおいて、前記ブレード8のガイド壁と織機の前後方向において向き合う位置に前記部品11及び12からほぼ垂立方向に延出する補助吹付けノズル10を配設することが記載されている(別紙第二図面参照)。

そして、ガイド壁によつて形成される前記緯入れ通路は多数のブレード8によつて形成されているので、流体がブレード8間からその背後に漏洩することが多少は許容される領域を形成することが可能であること、及び、緯糸はブレード8の切欠き9のガイド壁間を通過するのであるから、補助流体の噴射口が前記ガイド壁間(つまりガイド壁の奥部側壁部)を多少とも指向していることは、引用例1の記載内容から十分に理解されるところと認められる。

3  また、昭和52年特許出願公開第49361号公報(以下「引用例2」という。)には、

緯糸引出し用隙間9を有する緯糸通過孔(以下「緯入れ通路」という。)8を備えたオリフイス4及び5(以下「ガイド片」という。)から成る緯打込みコム(以下「コム」という。)を用いて緯糸14を飛走させるジエツトルームにおいて、ガイド片に、緯入れ通路8によつてガイド壁を形成し、作動する前記ガイド片5の補助吹付けセグメント(以下「補助ノズル」という。)10と対向する側のガイド壁に、緯入れ方向に縮小する傾斜面を設け、補助搬送媒体(以下「補助流体」という。)の噴射中心軸線が前記傾斜面に対して交差するように前記補助ノズル10の噴射口を配設して、緯糸14を前記ガイド壁間を飛走させること

が記載されている(別紙第三図面、特にFIG.2を参照)。

そして、右構成によれば、緯糸14は、緯入れ通路8内を、補助流体によつて加速されながら直線状に飛走していくものと理解される。

4  そこで、本願発明と引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1記載の発明の「部品11及び12、ブレード8、補助吹付けノズル10」は、それぞれ、本願発明の「スレイ、ガイド片、補助ノズル」に相当するから、両者は、本願発明の要件a、b及びeを具備する点において一致するが、本願発明が要件c及びdを備えるのに対し、引用例1記載の発明は要件c及びdを備えていない点において一応相違するものと認められる(以下、「部品11及び12、ブレード、補助吹付けノズル」を、「スレイ、ガイド片、補助ノズル」という。)。

5  右相違点について検討する。

まず、要件cは、引用例2に記載されている。

また、要件dについては、前記のとおり引用例2に補助流体の噴射中心軸線が傾斜面に対して交差するように配設することが記載されているが、緯糸が補助流体によつて加速されながら直線状に飛走している以上、補助流体は、程度の差こそあれ多少とも「傾斜面に衝突して緯入れ方向に反射される流体」を生じているものと認められる。そして、補助流体が「傾斜面に衝突して緯入れ方向に反射される流体」を緯糸を案内すべき流体の主成分とするか否かは、緯糸が緯入れ通路を通過する状況に応じて当業者が適宜選択する程度の事項と認められる。

そうすると、引用例1に記載されている要件a、b及びeから成るジエツトルームの緯入れ装置に、引用例2に記載されている要件c及びdの技術的事項を応用することによつて本願発明の構成を得ることは、それによつて奏される作用効果も当然予測し得る程度のものであることにかんがみても、当業者が容易になし得たことと認められる。

6  以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1及び引用例2に記載されている技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第二九条第二項の規定により、特許を受けることができない。

四  審決の取消事由

審決は、引用例1及び引用例2記載の技術内容を誤認した結果、一致点の認定及び相違点の判断を誤つて、本願発明は各引用例記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと誤つて判断したものであつて、違法であるから取り消されるべきである。

1  一致点の認定の誤り

審決は、本願発明と引用例1記載の発明は本願発明の要件a及びeを具備する点において一致すると認定しているが、誤りである。

本願発明のように、補助ノズルが噴射する補助流体を搬送用流体の主成分として、緯糸をガイド壁(切欠き)の奥部側壁部に沿わせて飛走させるためには、補助ノズルが噴射する補助流体の噴射方向(すなわち、補助ノズルの噴射中心軸線が指向する方向)の設定が極めて重要である。

しかるに、引用例1には、補助ノズル10から噴射する補助流体を搬送用流体の主成分とする旨の記載も、緯糸をガイド片8の切欠き9の奥部側壁部に沿わせて飛走させる旨の記載もなく、まして補助ノズル10の噴射中心軸線が指向する方向についての記載は全く存しない。そして、技術常識によれば、補助ノズル10が噴射した補助流体は円錐状に拡散することが自明であるから、引用例1記載の発明においては、搬送用流体のガイド片8背後への漏洩はガイド片8の切欠き9の特定領域のみでなく切欠き9の全周縁において生ずると解されるし、補助ノズル10の噴射中心軸線が切欠き9の奥部側壁部を指向していると推認することもできないから、引用例1記載の発明においては、主ノズル及び補助ノズル10が噴射する搬送用流体はガイド片8の切欠き9の中心部を流れ、したがつて緯糸は緯入れ通路の中心部を飛走するものと考えるほかない。

そうすると、本願発明と引用例1記載の発明は、本願発明の要件a(緯糸をガイド壁(切欠き)の奥部側壁部に沿わせて飛走させて緯入れを行うジエツトルーム)及び要件e(緯糸をガイド壁(切欠き)の奥部側壁部に沿わせて飛走させるようにしたこと)をそれぞれ具備する点において一致するとした審決の認定は、誤りである。

2  相違点の判断の誤り

審決は、相違点の判断に当たり、引用例2には本願発明の要件cが記載されており、また、補助流体が「傾斜面に衝突して緯入れ方向に反射される流体」を緯糸を案内すべき流体の主成分とするか否かは当業者が適宜選択する程度のことと判断しているが、誤りである。

(一) 引用例2には、緯入れ通路8の周縁に緯入れ方向に縮小する傾斜面を形成することが記載されているが、補助流体を右傾斜面に衝突させ緯入れ方向に反射させること、及び、反射された流体を搬送用流体とすることを目的として補助ノズル10の噴射中心軸線15を緯入れ通路8に形成した傾斜面に交差させる旨の記載は存しない。

引用例2記載の発明の技術内容は、コム1の軸線12の方向を指向している主ノズル13が噴射する搬送用流体によつて緯入れ通路8に緯糸を飛走させるジエツトルームにおいて、ガイド片5に配設されている補助ノズル10から補助流体を噴射して搬送用流体を加速することによつて緯糸をコム1の他端まで飛走させるものであつて、一対の補助ノズル10の各噴射中心軸線15を、コム1の軸線12に平行で該一対の補助ノズル10を含む平面π上において、緯糸引出し用隙間9とは反対側の領域で交差させることによつて、補助流体を主ノズル13が噴射した搬送用流体に合流させ、搬送用流体の高速部を緯入れ通路8内の緯糸引出し用隙間9とは反対側の領域に形成しようとするものである。したがつて、引用例2記載の発明においては、一対の補助ノズル10から各噴射中心軸線15に沿つて噴射された補助流体は、噴射中心軸線15の交差点において衝突し、衝突後は噴射中心軸線15の方向には流れることなく、主ノズル13が噴射した搬送用流体を加速すると共にこれに合流吸収されて、緯入れ通路8内をコム1の軸線12に平行に流れるものと考えられる。

この点について、審決は、引用例2記載の補助流体は程度の差こそあれ多少とも「傾斜面に衝突して緯入れ方向に反射される流体」を生じているものと認定している。しかしながら、引用例2には、一対の補助ノズル10の噴射中心軸線15はそれを平面ρ(緯糸引出し用隙間9の端部を結ぶ直線とコム1の軸線12とによつて囲まれる平面)に直角に投影した線がコム1の軸線12に角αで交わると記載されているのであるから、各一対の補助ノズル10の噴射中心軸線15は、緯入れ通路8内のコム1の軸線12から離れた領域において前記平面ρと交わることになり、個々の補助ノズル10の噴射中心軸線15を延長しても、平面ρ上において、緯糸引出し用隙間9とは反対側(すなわち、緯入れ通路8の奥部側壁部)を指向していることにはならない。したがつて、仮に一個の補助ノズル10のみから補助流体を噴射した場合には搬送用流体にコム1の軸線12の回りを旋回する旋回流を生じさせることになり、搬送用流体に緯入れ通路8の全断面にわたる振動を生じさせる危険があることは自明であるから、補助ノズル10の噴射中心軸線15を幾何学的に延長すれば緯入れ通路8の周縁のどこかと交差するとしても、「傾斜面に衝突して緯入れ方向に反射される流体」を生ずることはあり得ないのであつて、審決の前記認定は誤りである。

付言するに、多数のガイド片を並列させて緯入れ通路を形成し緯入れを行うジエツトルームにおいて、各ガイド片の切欠きの周縁に緯入れ方向に縮小する傾斜面を形成すると、傾斜面に沿つて搬送用流体の方向付けが行われるため、求心指向する流体が形成され搬送用流体の拡散を防止し得ることは、引用例2記載の発明の出願前から技術常識となつていたのであるから、引用例2記載の緯入れ通路8の周縁に形成されている緯入れ方向に縮小する傾斜面は、別紙第三図面のFIG.2に矢印で表されているように、補助ノズル10が噴射する補助流体が、隣り合うガイド片4に衝突して乱流を生ずることがないように、緯入れ通路8内に求心指向させ拡散を防止するために形成したものと考えるのが相当である。

(二) ジエツトルームは、緯入れ通路内にノズルから空気等の搬送用流体を緯入れ方向に噴射し、緯糸を搬送用流体に乗せて飛走させる織機であるから、搬送用流体の主成分をどのように形成するかは極めて重要な事項であるところ、ガイド片は搬送用流体の到達距離を増大させるものであり、また補助ノズルから補助流体を噴射することは搬送用流体の速度、圧力及び運動エネルギの低下を補償するものであるから、それらの構成は単なる設計事項にとどまらない。

そして、スレイ上の並列させたガイド片の一端に配設した主ノズルから緯入れ通路の中心軸線に向かつて搬送用流体を噴射し、緯入れ通路の中途において補助流体を噴射するジエツトルームには、

① 主ノズルが噴射する搬送用流体を緯糸飛走の主成分とし、補助ノズルが噴射する補助流体によつて主ノズルが噴射した搬送用流体の漏洩分を補い、かつ加速するもの、及び

② 主ノズルが噴射する搬送用流体は緯糸を最初の位置にある補助ノズルまで飛走させるのに必要にして十分の量とし、最初の補助ノズル以降は、各補助ノズルが噴射する流体のみによつて緯糸を飛走させるもの

が存するが、両者は緯糸搬送の原理を全く異にし、したがつて主ノズル及び補助ノズルから噴射される搬送用流体の目的及び効果は別異のものである。すなわち、①の補助流体は主ノズルが噴射する搬送用流体の流れに加わる方向に噴射されるものであつて、補助流体が主ノズルから噴射される搬送用流体を横切ることはあり得ない。これに対し②の補助ノズルが噴射する補助流体は、その一部をガイド片間から漏洩させることによつてガイド壁に近接する流体を形成し、これを主成分として緯糸を飛走させるのである。以上のとおり、緯糸を飛走すべき流体を主ノズルから噴射される搬送用流体とするか、補助ノズルから噴射される補助流体とするかは、ジエツトルームの基本的構成に係わることであつて、当業者が適宜選択する事項ではない。

本願発明は、その要旨から明らかなとおり②のカテゴリに属する。

一方、引用例1には補助ノズルが噴射する補助流体の作用について記載されていないが、同発明の特許出願時の技術常識であつた、主ノズルが噴射する搬送用流体を補助ノズルが噴射する補助流体によつて補償しつつ緯糸を緯入れ通路のほぼ中心部を飛走させる技術の域を出るものではなく、①のカテゴリに属すると解するのが相当である。また、引用例2記載の発明は、一対の補助ノズルが噴射する補助流体の噴射中心軸線を、コム1の軸線12に平行で該一対の補助ノズル10を含む平面πにおいて、緯糸引出し用隙間9とは反対側の領域において交差させることによつて、搬送用流体の高速部を緯入れ通路内の緯糸引出し用隙間9とは反対側の領域に形成するものであるから、明らかに①のカテゴリに属する。

したがつて、①のカテゴリに属する引用例1記載の発明に、同じく①のカテゴリに属する引用例2記載の技術的事項を応用して本願発明の構成を得ることは当業者が容易になし得たことと認められるとした審決の判断は、誤りである。

第三請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一ないし三の事実は認める。

二  同四は争う。審決の認定及び判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。

1  一致点の認定について

引用例1には、「補助吹き付けノズル10(中略)の出口開口(図示していない)は、切り欠き9によつて与えられた案内路の横の開口の前に位置され、その軸は、案内路の縦方向と或る小さい角度をなしている。」(第三頁左上欄第三行ないし第七行)、「吹き付けによつて通路内に入れられる搬送空気が一つの補助吹き付けノズルから次のノズルへ隣り合う」(第二頁左上欄第七行ないし第九行)、及び「織り杼口の一端に位置された主吹き付けノズルから出る横糸は(中略)他端へ搬送される。」(第三頁左上欄第一四行ないし右上欄第一行)と記載されている。したがつて、緯糸は、主ノズル及び補助ノズル10から噴射される搬送用流体によつて緯入れ通路内を安定状態でコム1の他端へ飛走するのであるが、補助ノズル10の噴射中心軸線は緯入れ通路の軸線とある小さい角度を成しているのであるから、補助流体は、緯糸が切欠き9(ガイド壁)に引つ掛からないような位置、すなわちガイド壁の奥部側壁部を多少とも指向しているのである。このことは、本願明細書第二欄第三五行ないし第三欄第一五行及び別紙第一図面第7図に記載されている従来装置の説明、及び、従来装置とほぼ同等の技術内容を示す昭和47年特許出願公開第7576号公報(乙第一号証)の記載を勘案すれば、当業者ならば容易に理解し得る事項である。

そして、引用例1記載の緯入れ通路が所望の間隔を置いた複数のガイド片8によつて構成され、かつ、「織り杼口を通る横糸の搬送、特にその搬送速度は(中略)ブレードの間から大気中へ逃げる度合いに強く影響を受ける」(第二頁左上欄第六行ないし第一〇行)と記載されているのであるから、引用例1記載の発明においても、補助流体の一部がガイド片間からその背後に漏洩するのは当然のことであるが、緯糸の飛走の安定のためには補助流体の漏洩場所はガイド壁の奥部側壁部がよいことは、当業者ならば容易に予測し得る事項というべきである。ちなみに、引用例1には、緯糸を緯入れ通路の中心部を飛走させる旨の記載は全く存しない。

したがつて、審決の一致点の認定に誤りはない。

2  相違点の判断について

引用例2には、補助ノズル10と対向する側のガイド壁に緯入れ方向に縮小する傾斜面を設け、この傾斜面に対して、補助ノズル10の噴射中心軸線15を、その直角な投影が平面ρにおいて角αだけガイド片4の緯入れ通路8の軸線12に交差するように設定することが記載されており、第三頁左下欄第一〇行ないし第一二行には「第1図において、作動オリフイス5には、二個の補助吹付けセグメント10、10があるが、しかしその内の一つでも充分である。」と記載されている。

そして、補助ノズルが一個だけでも緯糸の飛走に十分な場合の構成は別紙第三図面FIG.2のようになると考えられるが、同図と本願発明の別紙第一図面の補助ノズル5及びガイド壁6の配置関係は大同小異であつて、別紙第三図面FIG.2の補助ノズル10の噴射中心軸線15も緯入れ通路8の軸線12と交差するので、補助流体は補助ノズル10とは反対側の傾斜面に多少なりとも当接して、緯入れ方向に反射される流体を生ずることは、本願明細書の前記従来装置の説明及び前掲乙第一号証の記載を勘案すれば、当業者ならば容易に予測し得る事項である。

のみならず、引用例2の記載によれば、引用例2記載の発明の緯糸14は、主ノズル13が噴射する搬送用流体によつて最初のガイド片5まで飛走し、同所において補助ノズル10が噴射する補助流体によつて加速され、同様の加速が複数個配設されているガイド片5の補助ノズル10によつて次々に行われてコム1の他端まで飛走するのであるが、右飛走が直線的に行われることは当業者には自明の事項である。そして、主ノズル13が噴射する搬送用流体による緯糸の効力ある飛走距離は約四〇cmと考えられるところ、通常のジエツト織機の織幅は一mないし二mであるから、主ノズル13が噴射する搬送用流体が緯糸を飛走させる主成分であるはずがなく、複数個配設されているガイド片5の補助ノズル10が噴射する補助流体によるリレー式の加速が緯糸を飛走させる主成分であつて、主ノズル13が噴射する搬送用流体による緯糸の飛走距離をどの程度にするかは適宜になし得る設計事項である。

この点について、原告らは、ジエツトルームには、①主ノズルが噴射する搬送用流体が緯糸飛走の主成分であるものと、②最初の補助ノズル以降は各補助ノズルが噴射する補助流体のみによつて緯糸を飛走させるものがあり、本願発明は②のカテゴリに属するが引用例2記載の発明は①のカテゴリに属すると主張する。しかしながら、本願発明が②のカテゴリに属する技術内容を有するものであることは本願発明の要旨とされていないから、原告の右主張は発明の要旨に基づかないものであつて失当である。のみならず、①は織幅が狭いジエツト織機にのみ好適なものであつて、引用例2記載の発明も、前記のように緯糸は補助流体による加速がなければコムの他端に達しないのであるから、②のカテゴリに属することは明らかである。

以上のとおり、本願発明の技術的課題は引用例1及び引用例2記載の発明と共通するものであつて何ら新規性がなく、かつ、引用例1に記載されているガイド壁9の奥部側壁部に、緯入れ方向に縮小する傾斜面を形成することは、当業者ならば引用例2の記載から容易に想到し得た事項である。したがつて、本願発明の構成は、引用例1及び引用例2記載の技術的事項から当業者が容易に予測し得たものであつて、右構成によつて奏される作用効果も当業者が予測し得る範囲のものである。この点について、原告は、引用例2記載の発明におけるガイド壁5の傾斜面は緯糸の搬送用流体を求心指向させ拡散を防止する作用効果を得るために形成されているものであると主張するが、右と、緯糸搬送流体の漏洩を極端に減少させ緯糸をガイド壁側に維持しながら緯入れ方向に飛走させる力を得るとの本願発明の作用効果とは、実質的に同一の技術的事項というべきである。

したがつて、審決の相違点の判断に誤りはない。

第四証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当業者間に争いがない。

二  そこで、原告ら主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1  成立に争いない甲第二号証(本願発明の特許出願公告公報。以下「明細書」という。)及び第三号証(昭和60年11月15日付け手続補正書)によれば、本願発明は左記の技術的課題(目的)、構成及び作用効果を有するものと認められる(別紙第一図面参照)。

(一)  技術的課題(目的)

本願発明は、スレイ上に流体及び緯糸を案内する緯入れ通路を形成する多数のガイド片を備え、補助流体を利用して緯入れを行うジエツトルームの緯入れ装置、具体的には、緯入れ方向に多数並設して流体及び緯糸の緯入れ通路を形成するガイド片のガイド壁に沿わせて、補助流体による緯糸の緯入れを行う形態のものを対象とする(明細書第二欄第一三行ないし第一六行、第二八行ないし第三二行)。

この形態のものは、比較的低速度においては安定した緯入れを行い得るが、緯入れ速度をより高速化するため流体速度を上げても、緯糸の飛走速度が上がらないばかりか、緯入れの安定性が阻害される結果となる(同第三欄第五行ないし第九行)。その最も大きな要因は、例えば別紙第一図面第7図に示されているように、補助流体をガイド壁の奥部側壁部に指向させこれに衝突させて、補助流体の一部をガイド片間からガイド片背面に積極的に漏洩させ、これによつて緯糸をガイド壁の奥部側壁部に沿うように押し付けた状態を維持しながら緯入れする結果、緯入れに安定性を付与する機能が極めて強く発揮される反面、この補助流体の漏洩が、緯糸を飛走させるために必要な流体の利用効率を低下させて、緯糸の飛走速度を高める機能を著しく阻害することである(同第三欄第一一行ないし第二七行、手続補正書第二丁第九行ないし第一三行。なお、後記(三)において第7図(従来例)に関して述べるところを参照)。

本願発明の目的は、補助流体を利用して緯糸をガイド片のガイド壁に沿わせて緯入れ通路に緯入れするジエトルームにおいて、補助ノズルとガイド片の構成を改良することによつて、従来装置の前記欠点を解消し、緯入れの安定性を維持しながら、緯入れ速度のより高速化を達成することにある(明細書第三欄第二八行ないし第三四行)。

(二)  構成

本願発明は、前記目的を達成するために、その要旨とする構成を採用したものである。

本願発明の構成を別紙第一図面に基づいて説明すると、第1図及び第2図は本願発明の一実施例の概略を示したもので、1は、矢印方向に往復回動するスレイスウオード2に固定したスレイである。スレイ1上には筬3、ガイド片4及び補助ノズル5が配設される。ガイド片4は、第2図に明示されているように緯入れ方向に多数並設されており、それらの筬3側に半開口したガイド壁6(切欠き)によつて、流体及び緯糸の緯入れ通路が形成される。また、補助ノズル5は、ガイド片4のガイド壁6に織械の前後方向において向き合うように所定の間隔ごとに配設され、その噴射口7は緯入れ方向で、かつガイド壁6に向けて開口し、その噴射中心軸線が第6図に明示されているようにガイド壁6に交差するように構成される(明細書第三欄第三五行ないし第四欄第六行)。

機台側方に固定して設けられたチーズ8の緯糸Yは、ローラ9及び10によつて繰り出され貯留装置11に一時貯留された後、制動装置12を通り、メインノズル13に達する。メインノズル13から搬送用流体が噴射されると同時に緯糸Yも飛走され、ガイド片4によつて形成された緯入れ通路内を、補助ノズル5からの補助流体によつて飛走力を維持されながら、ガイド壁6に沿つて緯入れされる(同第四欄第六行ないし第一四行)。

第3図~第5図は本願発明のガイド片4の一実施例を示しており、上部が半開口され、その開口内壁面がガイド壁6を形成するが、ガイド壁6はその上面、下面及び縦面がすべて緯入れ方向に縮小する傾斜面に形成されている(同第四欄第二一行ないし第二六行)。

ガイド壁6における傾斜面は、補助ノズル5と対抗するガイド壁である緯入れ通路の奥部側壁部に形成しなければならない(同第六欄第三六行ないし第三八行)。

(三)  作用効果

第6図は本願発明のガイド片、第7図は従来例のガイド片を示すものであつて、ガイド壁(切欠き)6、6'の奥部側壁部が緯入れ方向に縮小する傾斜面に形成されているか、緯入れ方向に平行な平面で形成されているかの点において相違し、他の点はすべて同一である(明細書第四欄第三〇行ないし第三四行、手続補正書第二丁第一四行ないし第一七行)。

従来例(第7図)においては、補助ノズル5が噴射する補助流体は開口部7から円錐方向に放射状に拡散するが、流速が最も高い位置の流線をaで示すと、aから離れるに従つて流速が低い位置の流線となる(この点は、本願発明(第6図)においても同様である。)。流線aはロの位置のガイド片4'のガイド壁6'の緯入れ側端部に衝突して所定の角度で緯入れ方向に反射し、流線bも同ガイド片4'のガイド壁6'の反緯入れ側端部に衝突して緯入れ方向に流れ、流線eは同ガイド片4'に衝突することなく緯入れ方向に流れる。しかしながら、流線dは、イの位置のガイド片4'のガイド壁6'の反緯入れ側端部を通過してロの位置のガイド片4'の側面に衝突するので、すべてガイド片4'の背後に漏洩する。したがつて、a~dの範囲A'の流体はすべてガイド片4の背後に漏洩してしまい、緯糸を飛走させるために有効なものとならない。しかも、A'の範囲の流体は流速が最も高い位置a付近の流体であるのにその大半が漏洩するので、補助流体の利用効率が極めて低い。もつとも、この多くの漏洩流体は飛走する緯糸をガイド壁6'側に維持し緯入れの安定性を向上させるが、緯糸を必要以上にガイド壁6'側に押し付けガイド壁6'と接触する機会を多くするので、緯糸の接触抵抗が高まり、これが前記の流体利用効率の低下とあいまつて、緯入れ速度の高速化を阻害する要因となり得る(明細書第四欄第三四行ないし第五欄第二一行)。

一方、本願発明(第6図)においても流線a、b及びeは従来例と同様に緯入れ方向に流れるが、流線aはロの位置のガイド片4のガイド壁6の中央に衝突し、流線a付近の流速が比較的高い位置にある流線cも同ガイド壁6の緯入れ側端部に衝突して緯入れ方向に流れる。したがつて、流線c~dの漏洩流体域Aは極めて減少され、特に緯入れ速度を高めるために必要な流速が最も高い位置の流体、すなわち流線a付近の流体がすべて緯入れ方向に流れるため、補助流体の利用効率が極めて高く、緯入れ速度のより高速化を図ることができる。のみならず、漏洩流体の減少によつて緯糸をガイド壁6に押し付ける力が弱くなるため緯糸の接触抵抗が少なくなり、この点も高速化に寄与する。なお、第6図は漏洩流体域Aを平面的に示しているが、補助流体は前記のように円錐方向に立体的に拡散するから、漏洩流体の減少率は極めて高いものである(同第五欄第二二行ないし第四二行)。

また、本願発明は、ガイド壁6を緯入れ方向に縮小する傾斜面に構成してあるため、緯入れ通路側に突出する部分によつて漏洩する流体の剥離現象が多く発生し、ガイド片面における渦流などの乱流発生領域が極めて広くなるが、右乱流発生領域においては流体がガイド片4の背後に漏洩し難くなる。したがつて、本願発明においては、前記の漏洩流体域の縮小と右流体の剥離現象とが相乗的に作用して、漏洩流体を極端に減少することが可能である(同第五欄第四三行ないし第六欄第一〇行)。

なお、漏洩流体が極めて減少され、また、ガイド壁6が傾斜面であるため流体の反射角度が大きくなつて緯糸がガイド片4の開口部側に押しやられる結果、緯入れの安定性能が大きく阻害されると考えられるかもしれないが、第6図に示されているように漏洩流体域Aがある程度は存在すること、及び、緯糸をガイド片4の開口部側に押しやる力は流線b~cの位置の反射流体の反射角度が大きいために生ずるところ、この反射流体よりも開口部側において緯入れ方向に向かう流線eの位置の補助流体によつて右反射流体の流れが妨げられ、全体的に緯入れ方向に流れる現象が生ずる。したがつて、緯糸を開口部側に押しやる力が減少し、むしろ緯糸をガイド壁6側に維持しながら緯入れ方向に推進する力が強く働き、従来の装置に劣らない緯入れの安定性を発揮し得る(同第六欄第一七行ないし第三五行)。

以上のとおり、本願発明は、緯糸飛走のための補助流体の利用効率を極めて高くすることができ、緯入れ機能の高い安定性を維持しながら、緯入れ速度のより高速化を図ることができる。また、ガイド壁を傾斜面としたことによつて、補助流体の噴射角度を緯入れ方向に対してより大きくすることも可能になるので、補助流体の噴射口からガイド壁面に到達するまでの距離が短くなり、緯入れ速度をさらに高めることができ、低い噴射圧力によつても高い緯入れ速度を得ることができる。そして、このように補助流体の利用効率を高くすることができるため、各ガイド片間の隙間をより大きくして経糸絡みの発生を防止し得る結果、織物密度を高くすることができ、より複雑な織物製織を可能にすることができる(同第七欄第一四行ないし第八欄第九行)。

2  原告らは、審決の取消事由として、

(一)  一方において、一致点の認定の誤り、すなわち、本願発明と引用例1記載の発明が本願発明の要件a(緯糸をガイド壁の奥部側壁部に沿わせて飛走させ緯入れを行うジエツトルーム)及び要件e(緯糸をガイド壁の奥部側壁部に沿わせて飛走させるようにしたこと)を具備する点において一致するとの審決の認定は誤りであると主張し、

(二)  他方において、相違点の判断の誤り、すなわち、引用例2には本願発明の要件c(補助ノズルと対向する側のガイド壁の奥部側壁部に緯入れ方向に縮小する傾斜面を形成し、右傾斜面に対して補助流体の噴射中心軸線が交差するように同噴射口を補助ノズルに配設)が記載されているとの審決の判断、及び、本願発明の要件d(補助ノズルの噴射口から噴射されガイド壁の奥部側壁部に形成した「傾斜面に衝突して緯入れ方向に反射される流体」を緯糸を案内すべき流体の主成分とする)に関してなされている、引用例2記載の補助流体も程度の差こそあれ多少とも「傾斜面に衝突して緯入れ方向に反射される流体」を生じておりこれを緯糸を案内すべき流体の主成分とするか否かは当業者が適宜選択する程度のこととした審決の判断は誤りであると主張している。

しかしながら、本願発明の要件a、c、d及びeは、実質的に一つの技術的事項を、一方において発明の目的ないし作用効果に力点を置いて表現し(要件a及び要件e)、他方において右目的を達成し作用効果を得るために採用すべき構成に力点を置いて表現したもの(要件c及び要件d)と解されるから、原告らの主張は要するに、引用例1に記載されていない本願発明の要件c及び要件dが、引用例2に開示されているとした審決の判断の誤りをいうことに帰着すると考えられる。

3  そこで、引用例2記載の技術的事項を検討するに、

(一)  成立に争いない甲第五号証によれば、引用例2記載の発明は、従来の補助流体によつて搬送用流体を加速する装置においては、補助流体によつて緯糸が緯入れ通路の全断面にわたつて振動し、時には緯糸引出し用隙間まで達して糸の欠点の原因となる難点があり、緯糸が緯糸引出し用隙間から逃げ出さないように右隙間を弾性ダイアフラム等で機械的に塞ぐものもあるが構造が複雑になる難点があるとの知見に基づいて(第二頁左下欄第五行ないし右下欄第三行)、右問題点を解決するために、挿入された緯糸14の前部が、緯入れ通路内8の緯糸引出し用隙間9とは反対側の領域を指向する補助流体によつて方向付けられること、換言すれば、補助ノズル10の噴射中心軸線15をコム1の軸線12に平行な平面より下の空間で交差させることを構成の主眼とし(第二頁右下欄第四行ないし第一〇行、第三頁左上欄第五行及び第六行)、別紙第三図面において、コム1の軸線12と、緯糸引出し用隙間9の端17を結ぶ直線18とによつて囲まれる平面ρを想定し、補助ノズル10の噴射中心軸線15を右平面ρに投影すると、その投影線はコム1の軸線12に対し角α(〇度ないし九〇度)をもつて交差するようにしたものであつて(第三頁左下欄第一六行ないし右下欄第四行)、結局、補助流体は緯入れ通路内8の緯糸引出し用隙間9とは反対側の領域へ噴射され、その領域に補助流体の流れが形成されるものと認められる(第四頁右上欄第一行ないし第七行)。

(二)  右のとおり、コム1の軸線12に対し角αをもつて交差するのは補助ノズル10の噴射中心軸線15の投影線であつて、補助ノズル10の噴射中心軸線15自体ではないから、補助ノズル10の噴射中心軸線15を幾何学的に延長した場合は、補助流体がコム1の軸線12から離れた位置において前記平面ρと交差し、その結果旋回流になるような場合も含むことにならざるを得ない。そうすると、補助ノズル10から噴射された補助流体が緯入れ通路8に形成した傾斜面のいずれかに衝突し得るとしても、その反射流は必ずしも緯入れ方向を指向するとはいえないから、審決のように、引用例2記載の補助流体も程度の差こそあれ多少とも本願発明の要件dにいう「傾斜面に衝突して緯入れ方向に反射される流体」を生ずるとの推定は許されないものというべきである。このことは、引用例2には補助流体を緯入れ通路8に設けた傾斜面に衝突させて緯入れ方向に反射させることが明記されていないことはもとより、緯入れ通路8に形成すべき傾斜面についてすら、FIG.2に図示されているのみで詳細な説明においては、全く言及されていないことによつても裏付けられるものと考えられる。

(三)  ちなみに、ジエツトルームにおいて、緯入れ通路に緯入れ方向に縮小する傾斜面を形成すれば、緯糸搬送用流体の方向付けが行われることにより、傾斜面に沿つて求心指向される流体が形成され、流体が隣り合うガイド片に衝突して乱流を生ずることを防止すると共に、緯糸搬送用流体の拡散をも防止し得ることは自明の事項というべきであるから、引用例2の別紙第三図面に示されている緯入れ通路の傾斜面も、流体を求心指向させることを企図して形成されているものと解するのが相当である。そして、同図において噴射中心軸線15として描かれている矢印は、補助流体を、緯入れ通路8内の所望の方向(すなわち、緯糸引出し用隙間9とは反対側の領域)へ噴射することを示しているにすぎないと考えられるのである。

4  そうすると、本願発明と引用例2記載の発明とは、その技術的課題(目的)を異にし、したがつて、それぞれの補助ノズルから噴射される補助流体及び緯入れ通路に形成されている傾斜面が果たすべき機能も、全く別異のものであると考えなければならない。すなわち、

本願発明が緯入れ機能の高い安定性を維持しながら緯入れ速度のより高速化を達成することを目的としているのに対し(本願明細書第三欄第三二行及び第三三行、第七欄第一五行及び第一六行)、引用例2記載の発明は、緯入れ時において緯糸が振動し緯糸引出し用隙間から外へ逃げ出す等の問題点の解決を目的とするものである(第二頁左下欄第一二行ないし右下欄第五行)。

そして、補助流体及びガイド壁の傾斜面の機能は、本願発明においては補助流体がガイド壁の「傾斜面に衝突して緯入れ方向に反射される流体」を緯糸を案内すべき流体の主成分とする点にあるのに対し(本願明細書第五欄第二二行ないし第三五行)、引用例2は、補助流体について、緯入れ通路内の緯糸引出し用隙間とは反対側の領域において交差させ同領域に位置する補助流体によつて緯糸の振動及び逃出しを防止することを記載するのみであつて(第二頁右下欄第六行ないし第一〇行、第三頁左上欄第五行及び第六行)、緯入れ通路に形成されている傾斜面の機能は明らかにしていない(ただし、技術常識によれば、搬送用流体を方向付けして傾斜面に沿つて求心指向させ、流体が隣り合うガイド片に衝突して乱流を生ずることを防止すると共に、搬送用流体の拡散をも防止する点にあると考えられることは前記のとおりである。)。

したがつて、引用例2の別紙第二図面FIG.2には、緯入れ通路8に緯入れ方向に縮小する傾斜面が図示され、かつ、補助ノズル10から噴射される補助流体の噴射中心軸線15がコム1の軸線12に向かうように表示されているが、本願発明の補助流体及びガイド壁の傾斜面と、引用例2記載の発明の補助流体及び緯入れ通路の傾斜面とは、それぞれその構成及び機能において似て非なるものといわざるを得ないから、引用例2記載の補助流体は程度の差こそあれ多少とも「傾斜面に衝突して緯入れ方向に反射される流体」を生じているとした審決の認定は、根拠がないというべきである。この点について、被告は、引用例2記載の発明の別紙第三図面FIG.2と本願発明の別紙第一図面の補助ノズル5及びガイド壁6の配置関係は大同小異であると主張するが、本願発明と引用例2記載の発明が技術的課題(目的)を異にすること前記のとおりである以上、両図における補助ノズル5とこれに対向するガイド壁の傾斜面の配置関係を実質的に同一のものと理解することに合理的根拠があるとは、到底考えられない。

5  以上のとおりであるから、引用例2には本願発明の要件cが記載されており、かつ、引用例2の補助流体は「傾斜面に衝突して緯入れ方向に反射される流体」を生じていることを前提としこれを緯糸を案内すべき流体の主成分とするか否かは設計事項にすぎないとした審決の認定及び判断は、誤りである。

そして、審決は、右のように引用例2記載の技術内容を誤認して相違点の判断を誤つた結果、本願発明は引用例1及び引用例2記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと誤つて判断したものであつて違法であるから、その余の取消事由の存否を判断するまでもなく、取消しを免れない。

三  よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告らの本訴請求は正当としてこれを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤井俊彦 裁判官 春日民雄 裁判官 岩田嘉彦)

<以下省略>

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